スキルマップは、従業員のスキルを管理するために企業で幅広く使われている、とてもオススメのツールです。
スキルマップをうまく活用すれば、組織に不足しているスキルが一目瞭然となり、効率的な人材育成も可能になります。

ここでは、スキルマップとはどのようなもので、職場でどういった目的で活用されているのかをご紹介します。

スキルマップとは?

スキルマップとは、「業務で必要なスキルを洗い出し、従業員一人ひとりの持っているスキルを一覧にした表」のことです。組織内のスキルの状況を把握し、計画的な人材育成を図るために使われるツールです。
企業によっては、力量表、力量管理表、技能マップと呼ぶこともあります。また海外では、Skills Matrixという呼び方が一般的です。

スキルマップの目的

企業において、スキルマップは主に以下3点の目的で使われています。

  • 組織内のスキル可視化
  • 組織単位での人材育成
  • 従業員のモチベーション向上

1.組織内のスキル可視化

部門やグループ単位でスキルマップを作成することで、経営者や管理者は、組織内にどのようなスキルを持った人が何人いるのか、人材やスキルの状況を可視化し、一覧にて把握することができます。
これにより、組織内で現在または将来的に不足するスキルを明確にし、組織としてどのようなスキルを強化し、補充していくべきかが明らかになります。

2.組織単位での人材育成

スキルマップを用いると、従業員一人ひとりのスキルがどのレベルなのかが一目瞭然になります。
従業員のスキルごとの達成状況が明確になりますので、個人毎の教育計画を立てて、人材育成を図るためのツールとして活用できます。

3.従業員のモチベーション向上

スキルマップを従業員に共有することによって、次の点によって、従業員の成長意欲やモチベーションの向上を期待できます。

・自身に求められているスキル要件が明確になる。
・自身のスキルの現状が視覚的に明示されることで、スキル向上への達成意欲が湧く。
・他のメンバーのスキルの保有状況を見れるようにすると、競争心を刺激する。

スキルマップの従業員への共有は、職場の壁に張り出す、または個別面談の際に見せるといった方法がよく使われています。

企業におけるスキルマップの導入状況

少子高齢化や競争のグローバル化等の社会的背景から、人材育成を優先度の高い経営課題として捉え、今いる人材を育て、活かそうと考える企業が増えています。
そのような中、計画的な人材育成を行うためのツールとして、様々な業種でスキルマップの導入が進んでいます。

業種別に見ていくと、製造業はあらゆる業種の中で最もスキルマップの導入が進んでいます。中でも、製造部門や技術部門では、ISO9001の要求事項を満たすために、また顧客企業からの要請に対応するために、従業員のスキルを、スキルマップを用いて管理しています。

最近では、建設・工事業や保守サービス業、IT企業などの技術系企業でも、製造業と同様にスキルマップを導入する企業が増えてきました。

また、銀行等の金融業やデパート等の小売・サービス業の現場でも、スキルマップを用いた人材育成の取組みが始まっています。

スキルマップ作成の3つの基本ステップ

スキルマップの作成は、基本の流れといくつかのポイントを抑えれば、決して難しいものではありません。皆さんが、自社オリジナルのスキルマップを作成できるように、ここではスキルマップ作成の基本ステップをご紹介します。

スキルマップは、以下の3つのステップで作成していきます。

  1. スキル体系の作成
  2. スキル基準の策定
  3. スキルの棚卸し

ステップ1 スキル体系の作成

ステップ1では、スキルマップで管理するためのスキルの体系を作成します。
スキル体系がうまくできないと、後々のスキル管理の効果が薄れてしまいますので、まさにスキルマップ作成の肝になるプロセスです。

目的にあった適切なスキル体系を作成するためには、以下の5つのポイントがあります。
これらは多くの担当者様がお悩みになっているポイントですので、順にご紹介していきます。

① スキルの分類方法・・・「スキル体系はどう分類するのか?」
② スキルの階層数・・・「スキルは何段階で整理するのが良い?」
③ スキルの粒度・・・「スキルの細かさはどれくらいにすべきか?」
④ スキルの内容・・・「スキル項目に知識は入れても良いの?」
⑤ スキルの表現・・・「スキル名はどう表現する?」

① スキルの分類方法:「スキル体系はどう分類するのか?」

スキルの分類の仕方は、スキルマップの目的によって変わりますが、多くの場合では職場の業務フローの順に沿って、職場に必要なスキルを洗い出していくとよいでしょう。
第一階層を「業務項目」で区分し、そこから業務項目ごとの「作業項目(スキル)」に分解していくと、必要なスキルを漏れなく洗い出していくことができます。

また少し応用的になりますが、スキルの分類を「業務項目」ではなく、「要素技術」や「製品または製品カテゴリー」で整理することもあります。
「製品や製品カテゴリー」で分類すると、その製品を生産するために必要なスキルや、またそのスキルをもった人材がいるのかどうかが明らかになります。

スキル体系を検討し始めると、どのように分類すればよいのかという悩みに、必ずといってよいほど直面します。その際には、「スキルマップを何の目的のために作成するのか」に立ち戻り、その目的に見合った分類でスキル体系を整理していくとよいでしょう。

それからもう一点、完璧なスキル体系を目指しすぎると、スキルマップを作る前に頓挫してしまうことにもなりかねません。あまり力まずに、まずは80点のスキル体系を目指して、運用しながら修正していくことといったスタンスが大切です。

② スキルの階層数:「スキル項目は何階層が良い?」

スキル項目を作成する際には、スキルを何階層で作成するか、またどのようなレベル感の項目で分類していくかを決めておくとよいでしょう。

スキル項目の階層数は、何階層にするという決まりはありません。
ただし、あまり階層数が多いと複雑になってしまいますので、2~3階層程度、多くても4階層程度で管理するのがオススメです。

※スキルの階層を考える際の補足
将来的に、会社や事業所全体でのスキル管理を目指す場合、スキル項目の階層数や、各階層のレベル感は、部門やグループごとに独自に決めるのではなく、ある程度、会社や事業所等で共通の指針をもっておくと後々の混乱を避けることができます。

③ スキルの粒度:「スキルの細かさはどれくらいにすべきか?」

スキルの粒度とは、スキル項目の細かさの事です。

スキル体系を作成する際に、職場の業務やスキルを分解していくと、かなり細かい作業にまで分解することができます。しかし、スキルを管理する際に、スキルの項目が細かすぎても、管理がしきれません。逆に粗すぎると、職場のスキルを把握するにも、教育につなげるにも不十分です。

④ スキルの内容:「スキル項目に知識は入れても良いの?」

スキルとは、訓練によって習得できる能力、技能、技術のことです。一般的には、「○○○をできる」という表現ができるものをスキルと呼びます。

しかし、スキルマップで用いるスキル体系では、あまり厳密にスキルだけにこだわらずに、必要に応じて、知識や資格をスキルマップのスキル項目として混ぜても問題はありません。

スキルマップは、あくまで「組織内のスキルの状況を把握し、計画的な人材育成を図るためのツール」です。保有状況の把握や能力開発が必要な場合には、スキルという言葉にこだわりすぎず、業務で必要な知識や資格、教育などもスキルマップに含めていくことになります。

⑤ スキル名称の表現:「スキル名はどう表現する?」

スキル名は、例えば「給与計算」や「部材の強度測定」という様に、単語で書くのが一般的です。

「給与を計算できる」、「部材の強度を測定できる」等、文章で表現するケースもありますが、単語で管理する方が、スキルマップ上での記載や、また会社全体でスキルを集計する際に、管理が楽になります。

特別な理由がなければ、スキル名称は単語で表現する方がよいでしょう。

※スキルの定義についての補足
「給与計算」や「部材の強度測定」といったスキル名は、そのスキルに関連する業務に馴染みの方なら、その内容はすぐに想像できます。一方で、そうでない方から見ると、どのようなスキルなのかわかりません。

また、「部材の強度測定」というスキルを、指導員Aさんが評価した場合と、指導員Bさんが評価した場合では、同じレベル3であっても、その程度にバラツキが生じるかもしれません。

ステップ2 スキル基準の策定

次に、スキルの達成度を判定するためのスキルレベルを決めていきます。
スキルを「○:持っている/×:持っていない」とスキルの有無だけで評価する場合もあれば、レベル1~4というように、スキルにいくつかの段階を持たせることもあります。
どちらが正解という訳ではありませんが、スキルにレベルを持たせると、従業員の保有スキルがよりわかりやすくなります。

ステップ3 スキルの棚卸し

スキル体系とスキル基準ができれば、いよいよ従業員ごとのスキルレベルを棚卸ししていくことになります。
スキルの棚卸し、つまり職場の従業員の方が持っているスキルの評価には、大きく分けて、以下2つの方法があります。

  • 上司が部下のスキルを評価し、記入する。
  • 本人が自身のレベルを記入し、上司が評価・修正する

スキルの評価に試験等はないの?と疑問に思われる方もいるかもしれませんが、多くのケースでは上司による客観評価が用いられています。

スキル毎に試験を行えば、より正確なスキルのレベルが測定できるかもしれませんが、職場に必要な多くのスキル毎に試験を設けて評価するのは、運用において負荷が大きくなってしまいます。

スキルの可視化や人材育成が主な目的と考えると、スキル基準に基づいて、上長が評価していくのが最も現実的と言えるでしょう。(もちろん、重要なスキルにおいては、試験や認定制度を設けるというのも、優れたアイデアです。)

スキルマップのマス目にレベル値が記入できれば、いよいよスキルマップの完成です。
これで職場のメンバーのスキル状況が一目瞭然になりました。
ぜひスキルマップを活用し、現在または将来的に不足するスキルを確認しながら、スキルの育成を進めてください。

スキルマップは何で作成する?

スキルマップは、Excelのような表計算ソフトを利用して作成する方法と、専用システムを使って運用する方法があります。

まとめ

スキルマップの作成は、3つのステップで進めます。
3つのステップにおけるポイントを抑えれば、職場にあったスキルマップを作成することができます。

ただし、スキルマップの作成で、最初から100点を目指すのは簡単ではありません。80点を目指して作成し、運用しながら修正を加えていくことがゴールへの最も近道です。

まずは身構えてしまうより、小さい範囲でもよいのでスキルマップを作成し、運用を始めてみるのがよいでしょう。
スキルマップの運用を継続していけば、必ず職場の人材の可視化やスキル育成において効果が実感できるはずです。